税務調査に選定されない方法

確定申告
この記事は約5分で読めます。

 個人事業者やフリーランスの方が、「税務調査に入られない方法」は、残念ながらありません。でも「調査選定されにくい方法」はあります。もちろん、正しく確定申告しているという前提です。調査事案がどのように選定されるかを知れば、調査に入られにくくする方法は、ある程度浮かび上がってきます。

 調査事案の選定は、原則、統括国税調査官(会社でいえば課長)が選定します。業種、規模、調査日数、総調査件数などを、国税局の方針に沿って、年間調査計画をたてます。おおむね、以下の基準で選定されますが、個人課税の場合はベテラン統括官の「経験と勘」によって選定される場合も少なくありません。調査の得意な統括官と苦手な統括官では選定結果がかなり異なります。

 〇 各種取引資料せん(個々の納税者の金融機関取引内容や取引先との取引金額等を把握したもの)から見て、多額な申告漏れ等(増差所得という)または悪質な所得金額隠しが想定される者。

※ 国税局や税務署は取引資料の収集が、調査に対する最重要課題とし、あらゆる機会をとらえて、取引資料の収集をしています。実地調査の際に取引資料を収集するのはもちろんのこと、資料収集専担者(開発特官、機動官などと呼ばれる)は、一年中「資料源」を開発しています。

 それらの資料によって、いわゆる現金商売以外であれば、売上金額については、銀行等の一部把握を含めれば、かなりの部分を把握されていると考えられます。ですから、売上除外をしている納税者は、遅かれ早かれ調査に来ると思って間違いないでしょう。もちろん、正しく申告している方には関係ありません。

 〇 同業者と比べて、差益率(粗利率)、所得率が低い、数値が異常など。

 国税庁にはKSKという大型コンピュータシステムがあり、全国の確定申告書の全データが入力されています。そのシステムにアクセスすることによって、いろいろなデータを取出すことができます。例えば、業種別(職業別)データを抽出し、異常数値の者を選定したりしています。ただし、このシステムの分析・抽出データからは不正・脱税の納税者を選定することはできません。なぜなら、脱税者はばれないように同業者のデータ等に申告内容を調整しているからです。

 〇 節税を前面に出した内容の申告書。例えば、節税商品と宣伝されるものを申告したり、高額な給与と事業所得の損失(赤字)を通算して、所得税の高額還付を毎年繰り返している方。

 〇 海外で資産運用している方

 租税条約加盟国間では、情報の交換をしています。また、海外法人の日本関連法人に対するインセ  ンティブ報酬も定期的に情報収集しています。

 〇 毎年、事業売上900~950万円位で、消費税免税事業者の方。

 消費税課税事業者とならないよう売上調整、の可能性を疑われます。ただし、インボイス登録した事業者は売上金額にかかわらず、免税とはならないため、このパターンは減少すると思われます。

 〇 部外情報(いわゆるタレコミや投書など)

 税務署に対する部外情報は少なくありません。ただ、その内容は単なる嫉妬・ネタミの類が多いのが実情です。数は少ないですが、元従業員や元妻・愛人などと思える情報には真実性が高いので、きっちりと活用します。もちろん、納税者に情報提供があったことは完全秘匿ですし、情報提供者に(調査したかしないかも含め)結果を報告することもありません。厳格に秘密保持されています。

 その他、以下の基礎的な点も選定理由になり得ます。

 〇 青色決算書や収支内訳書(以下決算書等という。)の記載項目がきちと埋まっていない。

 決算書等の記載項目はすべて必須というわけではありません。しかし、細部まで埋まって(記載されていると)好印象です。帳簿等もキチンと記載されていると想像されます。きちんと埋まっていない場合は、経理がズサン(税理士作成の場合でも散見します)の場合がほとんどです。調査に行くと追徴課税が可能な内容(いい加減な経理処理レベルが多い)ので、調査に選ばれやすいです。

 〇 決算書等について、特定の経費が膨らんでいる。特に、接待交際費、消耗品費、雑費などが目立ちます。できるだけ、分散して記載した方がいいでしょう。経理がいいかげんか知識不足と想像されます。これも、申告内容のいい加減さと比例します。雑費が多いのは要注意です。

 〇 特殊事情がある場合は決算書等の「特殊事情」欄に記載する。この欄が意外と重要です。異常数値等の原因がわかれば、調査省略される場合も少なくありません。

〇 決算書等が手書きの場合、丁寧に書かれていること(うまいへたではありません)。決算書等をみていると、なぐり書きの雑な決算書等があります。これらの人は、申告内容も雑(適当)で誤りが多いです。

 また、これらとは別に、以下の場合は調査に選定されやすくなりますが、どうしようもありません。国税庁や国税局指定の「重点調査業種」などです。もし調査に来たら、できるだけ早く終了させるよう、積極的に協力するのが賢明です。

 ● 売上が急上昇している。規模が大きい。(さっさと法人成りが賢明)

 ● 好況業種、IT関連、海外取引がある。または、無申告者。

 ● 飲食業、風俗業、芸能人、開業医、弁護士、税理士(公認会計士)、コンサルタント、国会議員(特別国税調査官が対応しているが、政治資金規正法に守られているため、苦戦)等。このうち、税金のプロである税理士(公認会計士)については、国税局から各税務署へ詳細な指示があり、特に厳しく管理されています。

 さらに、まったく別の視点として「書面添付制度33-2」という制度があります。これは、税理士が税務署の代わりに帳簿等を調査し、「内容に間違いない」という証明書を確定申告書に添付するものです。この書類が添付されている場合、税務署が調査する場合は、前もって税理士に意見聴取しなければなりません。そこで、申告内容の疑問点が解消すると、調査はしないで終了となります。疑問が解消しなければ、そのまま調査に移行します。税理士としては「まったく問題ない…申告是認といいます」という判断をすることは、特に、個人事業者に対しては難しいため、「書面添付制度」の利用者は極めて少ない状況です。さらに、事前の意見聴取は絶対ではなく、必要があれば、「無予告調査」は行われます。国税庁は、この制度の普及に力をいれていますが、現場(税務署)では、個人の場合は実地調査に移行する場合が圧倒的に多いという実感です。

 なお、この記事の内容は、筆者の私見に基づくものです。内容について責任を負うものではありません。

コメント

タイトルとURLをコピーしました